東京地方裁判所 平成5年(行ウ)149号 判決 1995年1月27日
原告
宗教法人寳松院
右代表者代表役員
松濤泰雄
右訴訟代理人弁護士
勝野義孝
同
小名弦
被告
芝税務署長
盛岡崇
右訴訟代理人弁護士
岩渕正紀
被告指定代理人
矢吹雄太郎
外三名
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
被告が原告に対して平成二年一二月二七日付けでした次の各更正(以下「本件各更正」という。)を取り消す。
一 原告の昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六三年三月期」という。)に係る法人税の更正のうち、所得金額三億五八万一九一五円及び納付すべき法人税額八一一五万六八〇〇円を超える部分
二 原告の昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度(以下「平成元年三月期」という。)に係る法人税の更正のうち、所得金額一億二一九〇万二六〇〇円及び納付すべき法人税額三二九一万三五〇〇円を超える部分
三 原告の平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度(以下「平成二年三月期」といい、右各事業年度を合わせて「本件各事業年度」という。)に係る法人税の更正のうち、所得金額二億一三八四万三〇四五円及び納付すべき法人税額五七七三万七六〇〇円を超える部分
第二 事案の概要
一 公益法人に関する法人税の課税関係等
宗教法人を含む公益法人等は、収益事業を営む場合に限り、その収益事業から生じた各事業年度の所得について法人税が課され(法人税法(以下「法」という。)四条、五条)、収益事業以外の事業(以下「非収益事業」という。)から生じた所得については法人税が課されない(法七条)。
ここにいう収益事業とは、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいい(法二条一三号)、法人税法施行令(以下「施行令」という。)五条一項五号は、右事業の一つとして、不動産貸付業を掲げている。ただし、公益法人等が行う不動産貸付業のうち、主として住宅の用に供される土地の貸付業で、その貸付けの対価の額が低廉であることその他の大蔵省令で定める要件を満たすもの(以下「低廉住宅用地貸付業」という。)は、収益事業とされる不動産貸付業から除外されている(施行令五条一項五号へ)。右大蔵省令で定める要件とは、主として住宅の用に供される土地の貸付業の貸付けの対価の額のうち、当該事業年度の貸付期間につき経常的に収受する地代の額が、当該貸付けに係る土地に課される固定資産税額及び都市計画税額で当該貸付期間に係るものの合計額に三を乗じて計算した金額(昭和六三年四月一日前で、当該土地につき地代家賃統制令の適用がある場合において、当該金額が同令三条に規定する停止統制額又は認可統制額の当該貸付期間に対応する金額を超えるときは、これらの金額)以下であることをいう(法人税法施行規則四条の二)。
本件は、自己所有の土地を低廉住宅用地貸付業に係る貸付けに供していた宗教法人である原告が、借地権者が右借地権を譲渡する際の承諾料として得た収入(以下「譲渡承諾料」という。)を、非収益事業に係る収入として益金の額に算入せずに本件各事業年度に係る法人税の申告をしたところ、被告から、これを収益事業に係る収入として益金の額に算入すべきであるなどとして本件各更正を受けたため、原告が、被告に対し、本件各更正の取消しを求めているものである。
二 当事者間に争いがない事実
1 原告は、昭和二七年九月二六日に設立された宗教法人である。
2 原告は、別紙一記載の各旧借地権者(以下「本件旧借地権者」という。)に対し、同各対象土地(以下「本件各土地」という。)を賃貸していたところ、本件旧借地権者が右賃貸に係る借地権を同各新借地権者(以下「本件新借地権者」という。)に譲渡し、原告はこれを承諾した。
原告は、右承諾に伴い、別紙一記載の各収受日に、同各譲渡承諾料(以下「本件譲渡承諾料」という。)を収受した。
原告の本件旧借地権者に対する本件各土地の貸付け(以下「本件旧貸付け」という。)は、低廉住宅用地貸付業に係る貸付けとして非収益事業に該当するのに対し、原告の本件新借地権者に対する本件各土地の貸付け(以下「本件新貸付け」という。)は、収益事業としての不動産貸付業に係る貸付けに該当するものである。
3 原告の本件各事業年度に係る法人税の申告、本件各更正及びその後の不服申立ての経緯は、別紙二表1から3までに記載したとおりである。すなわち、原告は、本件譲渡承諾料を、非収益事業に係る収入として益金の額に算入せずに本件各事業年度に係る所得金額の申告をしたところ、被告は、これを収益事業に係る収入として益金の額に算入にすべきであるなどとして、本件各更正をした。
三 本件各更正の適法性に関する被告の主張<以下、省略>
四 原告の本件各事業年度に係る所得金額の主張額は、別紙三表1から3までの「原告主張」欄に記載したとおりである。
五 争点
譲渡承諾料は、不動産の貸付けから生じる収入であるから、非収益事業に係る収入に該当しない限り、収益事業とされる不動産貸付業に係る収入として益金の額に算入すべきであることについては、当事者間に争いがない。
本件の争点及びこれに関する当事者双方の主張の要旨は、次のとおりである。
1 本件譲渡承諾料は、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入に該当するか否か。
(一) 被告の主張
(1) 譲渡承諾料は、旧借地権者が、新借地権者に借地権を譲渡するに際し、賃貸人と新借地権者との間の賃貸借関係を有効に存続させるために、賃貸人に対して譲渡の承諾を求めることの対価として支払われるものである。すなわち、譲渡承諾料は、賃貸人が、旧借権者との間の賃貸借関係を終了させて、新借地権者との間の賃貸借関係を設定し、又は旧借地権者との間の賃貸借関係を新借地権者に承継させることを承諾することの対価である。
右のような譲渡承諾料の性質に照らすと、譲渡承諾料は、賃貸人が旧借地権者に対する貸付けをそのまま継続する限りにおいては取得できず、正に賃貸人が新借地権者に対する貸付けを行うことを承諾するからこそ取得できるものであるから、その所得の源泉は、賃貸人の旧借地権者に対する貸付けにあるのではなく、賃貸人が新借地権者に対する新たな貸付けを承諾することにあるものというべきである。
したがって、譲渡承諾料は、賃貸人の新借地権者に対する貸付けから生じた収入であるというべきであるから、これが低廉住宅用地貸付業に係る収入であるかどうかについては、賃貸人の新借地権者に対する貸付けの内容が低廉住宅用地貸付業に係る貸付けに該当するかどうかによって判断されるべきである。
そうすると、本件新貸付けは低廉住宅用地貸付業に係る貸付けには該当しないから、本件譲渡承諾料は、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入には該当しないというべきである。
(2) なお、原告は、譲渡承諾料の法的経済的負担者は旧借地権者である旨主張するが、新借地権者は、借地権の譲渡を受けるために必要な費用を、借地権の譲渡代金に譲渡承諾料の額を加算した額としてとらえているのであるから、譲渡承諾料は、これを新借地権者が支払う場合はもとより、旧借地権者が支払う場合であっても、実質的には、新借地権者が、自分が当該土地を賃借するために必要な費用として出捐しているものであるというべきである。
また、原告は、譲渡承諾料には地代の後払としての側面がある旨主張するが、当事者には、地代の後払という意識は全くなく、借地権譲渡代金又は借地権価額を基準として譲渡承諾料の額を決定しているから、右主張は取引の実態に合致していないのみならず、本件においては、本件譲渡承諾料が地代に含まれるものとして本件旧貸付けの地代の額を計算すると、本件旧貸付けが低廉住宅用地貸付業に係る貸付けとしての要件を満たさないことになる。
したがって、原告の右主張は、いずれも相当ではない。
(二) 原告の主張
借地権の譲渡は、旧借地権者が、新借地権者に対し、賃貸人との間の賃貸借関係を、一体として、かつ、同一の内容で承継的に移転することであり、譲渡承諾料は、賃貸人が、右の賃貸借関係の承継的移転を承諾することの対価である。
また、譲渡承諾料の経済的実質をみると、旧借地権者が、賃貸人に対し、過去に支払った低い地代の差額を後払するという側面を有するものである。
しかも、譲渡承諾料は、旧借地権者において、借地権を譲渡して投下資本の回収を図るに当たり、賃貸人から無断譲渡に基づき賃貸借契約を解除されるのを避けるために負担するものであるから、その法的経済的負担者は旧借地権者であるというべきである。仮に、新借地権者が賃貸人に対して直接譲渡承諾料を支払う場合であっても、それは、旧借地権者が、支払の煩雑さを避けるために、借地権の譲渡代金の額から譲渡承諾料の額を控除して新借地権者に支払わせているものにすぎず、譲渡承諾料の最終的な負担者が旧借地権者であることに変わりはない。
これらの点にかんがみると、本件譲渡承諾料は、本件旧貸付けに係る付随収入として、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入に該当するというべきである。
2 本件各更正は、信義則に違反して違法か否か。
(一) 原告の主張
被告は、原告の過去一〇数年に及ぶ法人税の申告について、譲渡承諾料を収益事業に係る収入とする旨の指導をしなかったものであり、このことは、譲渡承諾料を非収益事業に係る収入とする旨の公的見解の表示をしたことにほかならない。
しかるに、被告は、従前の指導を翻し、既に税務調査が終了した昭和六三年三月期の法人税の申告に遡って、本件譲渡承諾料を収益事業に係る収入であるなどとして、本件各更正をしたものである。
このように、本件各更正は、法的安定性を著しく害し、課税の公平性及び明白性を欠くものであるから、信義則の法理を適用すべき特別の事情が存するというべきである。
(二) 被告の主張
租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という強い要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別な事情が存する場合に、初めて右法理を適用し得るものである。
そして、右の特別の事情が存するかどうかを判断するに当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が税務官庁の右表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて、納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点を考慮する必要があるというべきである。
しかるに、本件においては、担当職員が、過去の税務調査において、譲渡承諾料を非収益事業に係る収入とした原告の申告に対して格別の措置をとらなかったという事情は認められるものの、右事情をもって、被告が原告に対し公的見解を表示したものとはいえないし、本件各更正によって、原告に不利益を与えたことにはならない。
したがって、本件各更正には、信義則の法理を適用し得る特別な事情が存するとはいえない。
第三 争点に対する判断
一 争点1(本件譲渡承諾料は、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入に該当するか否か。)について
1 施行令五条一項五号へは、低廉住宅用地貸付業を収益事業とされる不動産貸付業から除外し、右貸付業から生じた所得を非課税としているところ、右規定の趣旨は、公益法人等が低廉な対価によって住宅の用に供する土地の貸付けを行っている場合には、他の営利法人との間で競合関係が生じることが少ないので、右貸付業から生じた所得をあえて収益事業から生じた所得として課税しなくても、課税上の不均衡等の弊害が生じないことを顧慮したものであると解される。
右規定の趣旨に照らすと、公益法人等の土地の貸付けから生じた収入が、低廉住宅用地貸付業に係る収入に該当するかどうかについては、右収入の基因となった貸付けが、右収入を収受した時点における当該土地の利用状況に照らして、低廉住宅用地貸付業に係る貸付けとしての要件を満たすものであり、他の営利法人との間で競合関係が生じないといえるものであるかどうかによって判断するのが相当である。そして、たとえば、賃貸人が、借地権の設定、更新、条件変更等のために権利金、更新料、更改料その他の一時金等を収受した場合においては、右収入は、借地権の設定、更新、条件変更等によって新たに設定された賃貸借関係に基因するものということができるから、新たに設定された賃貸借関係が低廉住宅用地貸付業に係る貸付けとしての要件を満たしているときには、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入に該当することになる。
ところで、借地権の譲渡は、旧借地権者から新借地権者に対して借地権が承継的に移転するという法的効果をもたらすものではあるが、これを実質的にみれば、賃貸人と旧借地権者との間の賃貸借関係を終了させ、新借地権者に当該土地を将来に向かって利用させるものであるから、賃貸人と新借地権者との間に新たな賃貸借関係を設定することにほかならない。
したがって、賃貸人が借地権の譲渡を承諾した際に収受する譲渡承諾料は、賃貸人と新借地権者との間に新たな賃貸借関係を設定するための対価としての実質を有するものであり、前記の権利金、更新料、更改料等と同様、賃貸人の新借地権者に対する新たな貸付けに基因するものというべきである。
しかも、前記施行令五条一項五号への趣旨に照らすと、公益法人である賃貸人の旧借地権者に対する貸付けが、低廉住宅用地貸付業に係る貸付けとしての要件を満たしていたとしても、借地権の譲渡により、当該賃貸人の新借地権者に対する新たな貸付けが、一般の用に供される貸付けになった場合には、当該賃貸人が借地権の譲渡を承諾することによって、他の営利企業との間で競合関係が生じ得る状態になったものというべきであるから、右承諾の対価である譲渡承諾料を非収益事業に係る収入として益金の額に算入しなければ、課税上の不均衡が生じることになる。
右のような譲渡承諾料の性質及び施行令五条一項五号への趣旨にかんがみると、譲渡承諾料が非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入に該当するかどうかについては、賃貸人の新借地権者に対する新たな貸付けが低廉住宅用地貸付業に係る貸付けとしての要件を満たしているかどうかという観点から判断するのが相当である。
そこで、本件について検討すると、本件新貸付けが収益事業とされる不動産貸付業に該当することについては当事者間に争いがないから、本件譲渡承諾料は、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入に該当するとは認められず、収益事業に係る収入に該当するというべきである。
2 これに対し、原告は、譲渡承諾料は、旧借地権者が、新借地権者に対し、賃貸人との間の賃貸借関係を、一体として、かつ、同一の内容で承継的に移転することの対価であり、その法的経済的負担者は旧借地権者であるから、本件譲渡承諾料は、本件旧貸付けに係る付随収入として、非収益事業とされる低廉住宅用地貸付業に係る収入に該当する旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、譲渡承諾料は、これを実質的にみると、賃貸人と旧借地権者との間の賃貸借関係を終了させ、新借地権者に当該土地を将来に向かって利用させるための対価として支払われるものであり、賃貸人の旧借地権者に対する貸付けをそのまま継続する限りにおいては取得できず、正に新借地権者に貸付けを行うことを承諾するからこそ取得できるものであるから、借地権が承継的に移転するという法的効果をもってしても、譲渡承諾料が賃貸人の旧借地権者に対する貸付けに基因すると解するのは相当ではない。
なお、譲渡承諾料は、現実に旧借地権者により支払われる場合と新借地権者により支払われる場合があるが、譲渡承諾料が新借地権者が当該土地を将来に向かって利用できるようにするための対価としての性質を有する以上、現実の支払がいずれによりなされたかによって、いずれに対する貸付けに基因するかが左右されるものではないというべきである。仮に、いずれにより支払われたかにより、これが左右されるとすれば、いずれにより支払われるかは、賃貸人、旧借地権者及び新借地権者の三者間における個別的な取引によって決められるものであるから、右三者間の合意いかんによって、これを収益事業に係る収入とするか、それとも非収益事業に係る収入とするかという取扱いを異にする結果をもたらすことになって、課税の公平を欠くことになり、相当ではないというべきである。
したがって、原告の右主張は失当である。
3 さらに、原告は、譲渡承諾料は、過去に支払われた低い地代の差額の後払としての側面を有するから、本件譲渡承諾料は本件旧貸付けに基因する旨主張する。
確かに、譲渡承諾料の中には原告主張のような差額地代の後払的側面も含まれることは一般に指摘されているところである。しかし、それは、借地権の譲渡の承諾に伴って支払われる金員が、結果としてみれば、過去に支払われた低額の地代を補完するという側面をも有するという経済的実質を指摘しているものとも考えられる上、借地権が譲渡されることなく終了した場合には、当然のことながら差額地代の後払はされないこと、一般に、譲渡承諾料の額は、利回り方式等により算出された在るべき適正地代と現実に支払われた地代との差額に着目して決定されるものではなく、借地権の譲渡代金又は借地権価額を基準として算出されることが多いこと、借地権の譲渡に当たって、新借地権者は、借地権譲渡を受けるために必要な費用は借地権に見合う譲受代金に譲渡承諾料を加算した額であるととらえ、他方、旧借地権者は、借地権譲渡により得られる利益は譲渡代金から譲渡承諾料を控除した額であるととらえて、当事者間で借地権譲渡代金等が合意されるのが通常であることからすれば、譲渡承諾料の実質的負担者は、法律形式や契約上の定めはともかく、新借地権者であるとみ得る場合が多いこと等借地権譲渡の取引の実態に関する当裁判所に顕著な事実をも考慮すれば、譲渡承諾料は、新借地権者が当該土地を将来に向かって利用できるようにするための対価として支払われるものであると解するのが素直であるというべきである。そうすると、譲渡承諾料の中に差額地代の後払的側面が含まれるとしても、そのことをもって、譲渡承諾料が新借地権者に対する貸付けに基因するものであるとする前記解釈を左右するものではないというべきである。
なお、乙三ないし五号証によれば、原告は、本件譲渡承諾料の額を算出するに当たり、本件旧借地権者から本件新借地権者への借地権の譲渡代金又は譲渡当時の相場による借地権価額の一〇ないし二〇パーセント相当額の金額を提示したものであり、本件旧借地権者が過去に支払った権利金や地代の額を全く考慮していないこと及び本件譲渡承諾料には、本件新借地権者に対する地上権設定料や借地条件変更承諾料と一括して額が決められたものもあることが認められ、このような取引の実態に照らしても、現に、原告は、本件譲渡承諾料を、新借地権者に本件各土地を将来に向かって利用させるための対価としてとらえていたことが窺われるのであり、本件譲渡承諾料が本件旧貸付けに係る地代の後払として支払われたものとは認められない。
したがって、原告の右主張は失当である。
二 争点2(本件各更正は、信義則に違反して違法か否か。)について
原告は、被告が、原告の過去一〇数年に及ぶ法人税の申告について、譲渡承諾料を収益事業に係る収入とする旨の指導をしなかったのに、本件各処分をしたのは、信義則に反して違法である旨主張する。
もとより、信義則の法理は、法の一般原理であって、租税法律関係にも適用され得るものであるから、租税法規に適合する課税処分についても、右法理の適用により、これを違法なものとして取り消すことができる場合もないとはいえない。
しかしながら、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。
そして、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼し、信頼に基づいて行動したことについて、納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点を考慮する必要があるというべきである。
これを本件についてみると、被告の原告に対する過去の税務調査において、担当職員が、譲渡承諾料を非収益事業に係る収入としていた原告の申告に対し、格別の措置をとらなかったという事実があることについては当事者間に争いがないところではあるが、右事実は、被告が課税しない状態が事実上継続したというにすぎないものであり、それだけをもってしては、被告が原告に対し公的見解を表示したことに該当するとはいえず、その他、課税につき一定の責任ある立場の者が原告に対し公的見解を表示したことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、本件において、信義則を適用し得べき特別な事情があるとは認められないというべきである。
したがって、原告の右主張は失当である。
三 なお、原告は、本件譲渡承諾料を課税するか非課税とするかの判断は、通達に基づき恣意的になされているから、本件各更正は租税法律主義に反して違法であると主張するかのようである。
しかしながら、租税法律主義とは、租税の賦課及び徴収は、すべて、法律の根拠に基づかなければならないとするものであるところ、本件において、被告は、法、施行令及び施行規則の規定を合理的に解釈して、本件譲渡承諾料が課税の対象となると判断したものであり、法律の根拠に基づかずに租税の賦課を行ったものということはできない。
したがって、原告の右主張は失当である。
四 結論
以上によれば、本件譲渡承諾料は、収益事業に係る収入というべきであるから、原告の本件各事業年度の益金の額に算入すべきである。
また、原告は、被告の、本件譲渡承諾料が収益事業に係る収入であることを前提とした本件各事業年度の所得金額の計算については明らかに争わない。
そうすると、前記第二、三の当事者間に争いのない事実に照らせば、原告の本件各事業年度に係る所得金額は、被告主張額のとおりになることが認められる。
よって、原告の請求は、いずれも理由がないから棄却すべきこととなる。
(裁判長裁判官秋山壽延 裁判官竹田光広 裁判官森田浩美)
別紙一〜三 <省略>